蜜月とは。

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「――東宮妃様。皇子様が御見えに御座いまする」  冷泉は、皐月の声に撥を止める。開かれた襖の方を見て見ると、少し緊張気味の旭の姿が。冷泉は、微笑みと共に頭を下げて向かえる。少し緊張気味に部屋へと足を進める旭を確認し、皐月は冷泉の部屋の襖を閉じた。己の番かと通りすがった女官が、皐月のひと睨みに慌てて小走りに過ぎ行く姿があったりと。勿論、旭も後宮へ入った瞬間より、此の雰囲気を察していた。やはり、不安だと表情が沈み行く旭。  冷泉が促す上へと腰を降ろすが。 「お疲れ様に御座いまする。旭」  後宮に居る時はこうして名を呼んでくれるのだと、旭は胸の高鳴りに頬を染めた。 「う、うん……有り難う……」  ほんのり笑みを浮かべ答えるも、不安が少し覗いたまま。冷泉が案じて、眉を寄せた。 「どうかしましたか?御元気が無く見えますが……」  旭は、辛気臭い顔を見せていてはと気を張る。只でさえ、見劣りする己が、せめて愛想だけでもなくてはと。 「あ、いやっ……疲れただけさ。実は、近く父上が私への譲位を考えて居られるみたいで……此れ位、付いていけないとな」  丁度良い話題があって良かったと、そう口を出た。しかし、まだ旭のみにしか語られていない事実であるので、冷泉にしてみればとても大きな報告だ。 「何と、そうでしたか……」  重く受け止め、憂える瞳で旭を見詰める冷泉。其れは確かに素晴らしく、目出度い事だ。其れに冷泉の中で、旭の能力値の高さへの信頼も勿論。しかし、其の能力値に組み込まれる天性の器用さは、冷泉が案じる処でもある。器用さ故に、受け入れる仕事量へ心身の疲労を溜めてしまわぬかと。
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