蜜月とは。

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 其の間。やはり旭は胸の支えに落ち着かず。恋仲となってから、以前とは又違った感情で冷泉を意識してしまうのだ。冷泉を疑うでは無いのだが、当初瑠璃が話して居た様に、冷泉へ傾倒する者は少なくない。其れは勿論、男女共にである。しかし、旭の立場上、後宮へ向かえる時も僅か。早々に執務を仕上げて、と思いながら執る筆は、やはり誤りを招いたりと。 「――あ。くそっ……」  東宮御所の、旭の執務室。そんな呟きが漏れてしまった。旭は、書き進めていた書類を忌々しげに掌の上で丸めると、傍らの屑入れへ。結構な量となっており、苛立ちと共に少々力を入れて押し込み、そして再び筆を。本日は、此の流れが多い。冷泉の仕事はやはり直ぐに終え、もう此方へ来る事が無いと言う状況も、旭の焦りの原因だろう。  旭は、まだ本日の終わりが見えぬものの筆を置いてしまった。本の少しだけ、後宮へと。白刃を伴い、直ぐ其処の後宮入り口へ。何時も通り、白刃を待機させ奥へと足を進める。そんな旭の足音は以前と違う。素直な主の一挙一動へ、白刃は見て見ぬ振りで、其の行く末を見守って居たと云う。  旭の姿へ、順に動きを止めて拝をして行く侍女女官達。辿り着いた部屋の前では、皐月が。 「皇子様。お疲れ様に御座います」  拝をする皐月へ、旭が頷く。 「有り難う。えっと、冷泉は……」  皐月が、徐に顔を上げる。 「お庭へ。そろそろ御戻りかと……」  御呼びにと笑顔で腰を上げた処で。 「あ、構わぬ。私が向かおう。部屋を頼む」  言いながら、其の身は早々に後宮の庭へと足を進めていて。皐月は、そんな旭へ目を丸くさせたが、旭と冷泉にあった距離感の変化へ、思わず笑みを溢したのだった。
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