蜜月とは。

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 一方。直ちに庭へと入った旭は、馴染みの女官が申し出た日傘も断り、冷泉の姿を探して居ると。 「――東宮妃様。暑くは御座いませぬか」 「お陰様で」  共に、若い男の声だ。ひとりは冷泉、もうひとりは侍女では無い。では、後宮にて庭の警護を任された者であろう。そう言えば、以前冷泉の進言により、侍女の雑用が減らされた事が思い出される。恐らく、日傘も冷泉が己でと。しかし、本日は護衛に任せたのか。旭は、何と無く場へ出て行き辛く、物陰より声の方を覗いて見た。  視線の先に並ぶは、冷泉と護衛の青年。其の青年は、旭も知る者であった。彼も、己の護衛を担う白刃と同じく、年若くで都治安維持部隊配属にして、此の東宮御所へ迎えられた優秀な人物だ。名は、嚆矢(コウシ)と。更に、実力と相反する其の繊細な美貌が、他以上に目立つ。治安維持部隊内外で、男女共の支持が非常に高いと、百合からの情報があったので。  足を進める二人は、旭より背を向け共に池の方へ。 「しかし、東宮妃様が西の帝の護衛をも担って居られたとは……御無礼かとは存じまするが、親近感を覚えて居ります」  傘を掲げ、そう言葉を続けた嚆矢を振り返り、冷泉が会釈した。 「武勇誇る、東の治安維持部隊所属の嚆矢殿より、斯様な言葉を頂けるとは。真、光栄に御座います」 「そ、そんな……此方こそ、勿体無い御言葉に御座いまする」  頬を染め、慌てて頭を下げる嚆矢。そんな会話が繰り広げられ、向かい合う二人。旭の位置からは、何とも仲良さげに見えてしまう。そして此の二人、何と言う華やかな絵となるのか。傷付く程であると。
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