蜜月とは。

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 勢いと共に肯定してみたが、斯様な情けない心情を語れと申すかとも。案の定、冷泉は圧を感じる眼差しを向けてくる。中途半端な理由では、恐らく誤魔化せまい。最悪、御叱りを受けるやも知れぬ。  固唾を飲み腹を括るも、僅かに視線を反らしてしまう旭。 「ええと……あの、さ、先程……嚆矢が、居りましたな……」  冷泉の眉が僅かに皺を作った。 「嚆矢殿……が、どうされましたか」  冷静に訊ねているつもりの冷泉だが、其の瞳は鋭さを増していた。旭の言葉に、不安が過ったのだ。突然何故、嚆矢の話題をと。更に、己の身辺に付く者故、冷泉も嚆矢の情報は知るのだ。経歴は勿論、美貌も知っている。まさか、嚆矢へ興味を抱いたのかと。しかし此の瞬間も、同じ不安を抱いているとは思わぬ旭。 「や、あの……噂通り、中々の美男だなぁ、と……」  それとなく話を進めた旭へ、冷泉の表情が強張った。 「美男……旭は、あの様な方がお好みか」  先程以上に、凄みの掛かった表情で問われ、青ざめた旭は手振りを添えて否定に掛かった。 「い、いやっ、そうではなく……!れ、冷泉と、揃うと、麗しい絵の様だと……っ!」 「私と嚆矢殿と……では、何ですか。私が旭と並ぶは、絵にもならず、不釣り合いと……?」  傷付けたのか、影も背負う様な冷泉へ、旭は狼狽える。何故其の方向なのだと、声には出せぬが心で突っ込みつつ。 「ち、違うぞっ!わ、私が、冷泉と釣り合わぬのだって……!」  遂に、己の不甲斐なさ全てを言葉にする羽目となった旭。其の心は最早、斬って刻まれ傷まみれである。
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