蜜月とは。

15/19
前へ
/187ページ
次へ
 其の言葉へ、旭は腕の中で目を見張る。何と、冷泉が己と同じくそんな不安をと。旭は、恥じらいと嬉しさに戸惑うも、徐に冷泉の背へ腕を回した。其れは、まだ少し遠慮がちではあったが。 「冷泉……あの……其れは、私の方なんだ……」  小さな声。けれど、冷泉は腕を緩めて旭を瞳に映す。見えたのは、己の胸元へ顔を埋めたままの旭の頭。其の耳は赤く染まって、肩の震えも。 「後宮は、さ……殆どが、冷泉を見詰める御方ばかりだ……そなたが公務に、外へ出ても、変わらない……嫌、なんだ……」  胸にある不安を吐露する旭。言葉を紡ぎながら、鼻を啜って。徐に、冷泉の腕の中より顔を上げる。冷泉は此れに、声をも失い、思考も停止していた。そうだろうとも。恋しい旭が、己の為に嫉妬をなさって居られると、其の声で聞かされているのだから。更に、此の潤んだ瞳、上気した顔。 「冷泉を、何処へ置いても、不安なんだよぉ……」  止めであった。冷泉は堪らず、旭を抱き締め、其の唇を塞いでしまう。 「んんっ……ふぅ、はぁ……っ」  其れは、激しい口付け。冷泉が日も落ちぬ時に、斯様な振る舞いをするは初めての事。旭も最初は口付け位、と思ったが。 「あっ……!?……い、いけな……っ、冷泉っ……」  衣を乱され、肌が覗くと触れた手へ、旭は制する様に逃れようとするが。 「やっ……ん……っ、れい……」 「何と可愛いらしい御方か……」  冷泉は止まらず。更に熱を誘う指先、舌、甘い吐息と囁き。逃れる術等あろうか。旭も遂には陥落。抗う事を忘れて、腕を回して。唯一残った恥じらいが、艶を帯びた声を堪えるも、冷泉を更に煽る結果になったという。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

103人が本棚に入れています
本棚に追加