蜜月とは。

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 故に。我に返った時は、既に遅く。まだ公務を控える旭を疲弊させてしまったと、冷泉は酷く反省し、執務の補佐を申し出た。幸い其の日の執務は、冷泉へ回せるものもあり、事なきを得たのだが。当の二人には深刻な不安でも、言うてしまえば蜜月の戯れ。只、此の二人に、そんな蜜月が訪れたと気付く者は、まだ極わずかである。帝である父ですら、息子夫夫を案じているのだから。  そんな中。漸く訪れた、二人の参内。佳宵は此の日迄何とも言えぬ、生殺しの日々を送っていた。一体何があったのかと、不安しかなかったのだから当然だろう。己へと厳かに拝する二人へ、出来る限り冷静に、威厳を込めて。 「――面を上げい」  許しを得て、徐に上がる二人の頭。愛息は酷く緊張した面持ち、婿は何時もと変わり無く。どちらが、何を語ると言うのだと、佳宵は固唾を飲む。 「さ、楽にして。改まり揃うて、どうしたのだ」  笑顔。なのだが、ひきつっていたやも知れない。しかし、声と言葉はなるべく軽やかに出したつもりの佳宵。  此れに、冷泉が佳宵へと再び改まり拝をしたのだ。何やら固い雰囲気に、佳宵は身構える。 「帝。本日は、帝へと感謝の思いを告げに参りました」  冷泉の言葉が来た。不穏な一声ではなかったことへ安堵はしつつも、何の事やらと目を丸くさせた佳宵。 「感謝、とは……何かしたのだろうか。私は……?」  訊ねる声に、徐に頭を上げる冷泉。其の表情は神妙で、佳宵も年の開きを忘れる程の気迫を見た程。  徐に開く、冷静の口。 「私へ、旭殿を御与え下さいましたことを。私には、当初より政略婚以上の思いが御座いました」
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