蜜月とは。

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 佳宵の思い切った提案へ、旭は戸惑いを覚えた。勿論、冷泉が父へ告げてくれた様に、己も冷泉の両親、そして西の上皇、現帝へも感謝を伝えたいと思っては居るが。 「次の月……とは、突然では……彼方の都合等は……」  此方が揃うて西へ向かうとなると、其れは冷泉の初の里帰りともなる。帝の公務の調整等を考えると、話が素早く進み過ぎではと。そんな旭へ、佳宵がひとつ息を吐く。 「実はな……私も、西の上皇もそなた等を案じて居った。国の事情も絡み、性も同じくではあるのでな……友情と敬意ある伴侶となれたらば、そなた等へ恋は別として許してやろうと、常々話をして居ったのだよ」  旭も冷泉も、そんな話になっているとは全く思い至らず。互いに、驚いた顔を見合せてしまった。だが、父等の思いやりに胸が暖かい。己等の立場での政略婚とは、本来の婚姻の目的以外のものも絡むのは必至。そして、国の為の決定を、拒む事は出来ぬものであるからだろう。  佳宵は目頭を覆い、話を続ける。 「だが、真の伴侶となれたと……こんなにも目出度い事は無い……東西国交の記念すべき此の政略婚にて、我が子が真の伴侶を……きっと、一刀帝の御導きに違いない……っ、御報告申し上げねばのぅ……っ」  言いながら佳宵が鼻を啜り、涙を拭って。遠い先祖へ迄思いを馳せるとは、其処迄父を不安にさせて居たのだと、旭は冷泉の手前面目無いと。 「あ、あのっ……父上、何も泣かずとも……っ」  佳宵へ声を掛ける旭は顔が先程以上に赤く染まっている。其れを、冷泉は微笑ましいと仄かに笑みを溢したりと。  まだ熱い思いおさまらず、鼻を啜る佳宵が旭へ顔を向けた。其の表情は些か神妙そうで。
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