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「良いか。そなた等揃うて、一刀帝並びに錦(ニシキ)皇后の御墓(みはか)へも詣でるのだぞ」
何やら感極まる父より名が出たのは、歴史上名高い東西国交の礎を築いた先帝、並びに其の后妃。其方は冷泉と同じく西より輿入れ、初の男子の后妃として東へ迎えられた。何時か鑑と語った、麗しい画集以外一切を謎のままに、天へ還った后妃様である。
とは言え、国の為に天へ誓いを立て成立した政略婚。皇家先祖の霊前へは、当然婚礼に続き礼拝(らいはい)済みなのだが。
「承知致しました……」
「畏まりました」
突っ込める雰囲気は無く、共に拝して受け止める姿があったのだった。
気恥ずかしい空気も存分に味わい、共に東宮御所へと戻って来た旭と冷泉。冷泉を後宮へ送り届け、一先ず其の私室にて腰を下ろした。
「――母上へは、明日報告としようか。一刀帝も参らねばならなくなったし……」
苦笑いと共にそう告げる旭へ、頭を下げる冷泉。
「承知致しました。帝へ有難い御言葉を賜り、私も感無量に御座います」
相変わらず、冷泉は生真面目である。旭が、少し遠慮がちに口を開き。
「あの……有り難う、冷泉……父上へ伝えてくれて……私も、其の……冷泉へ少しでも相応しく見られる様に、精進を重ねようと思う」
分を弁えて地味に生きてた故、まだ華やかな伴侶を得た事に慣れぬものの、名実共に伴侶である冷泉と対等に見られたい。そんな思いが。
言った後で耳迄を赤く染めて俯く旭へ、冷泉は堪らず胸におさめて。
「精進は、私こそ必要です。貴方と言う魅力溢れる御方を、繋ぎ止めねばならぬのですから」
「れ、冷泉はさ、審美眼に強い個性がある様な……」
言いながらも、困った様に笑う旭の心は、やはり嬉しくて、くすぐったくて。まだ慣れぬものの、冷泉へと腕を回す旭。近付く冷泉の顔の気配に、旭も答える様に顔を上げて。
次は、己が男を見せる番である。西の御所へ。其処におわす冷泉の父母、そして帝なる兄へ己の思いを知って欲しい。交わす其れは、誓いの如く口付けでもあったのだった。
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