雅やかなる聖地にて。

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 休憩を挟んでの、西への旅。今回は、一切其の動きは公表されて居らぬが、途中寄った宿にて、冷泉の姿へ密やかに騒ぎが起こったりと。東でも西でも、やはり冷泉の人気は大きい様である。  馬車は、軈て西の国境を越え、都へ。行き交う人々が、思いがけず御目に掛かれた東皇家の馬車へ驚き釘付け。似通った文化であっても、やはり異なる雰囲気。女性の出で立ち等は、髪型以外そう違いは無いが、元服を迎えただろう男の出で立ちはやはり違う。皆、髪は晒さぬように烏帽子を其の頭へ。衣も一定の身分や立場ある者は、袍と呼ばれる上衣を纏う姿が目に入ってくる。驚きながらも、明るい呼び掛けと共に手を振ってくれる民の姿は、長旅の癒しとなったのだった。  そして、程無く西の御所へと。旭にとっての、聖地である。厳かな声と共に、並ぶ武官等が守る門を通された東の馬車。旭の胸は緊張と期待とで高鳴るばかり。制止した馬車の屋形の扉が遂に開かれた。外へと出てみると、やはり己の住まう東の御所とは、異なる雰囲気。先ず、東西の武官が左右へ別れ、其の道を守る様に並ぶ様が目に。西の武官の出で立ちは、緋の袍を纏いおいかけを付けた冠を頂く。武官足る勇猛さも伺えるが、何と雅やかなと。  圧倒される中で、其の花道の先へ見えた御姿。深く下げていた頭を徐に上げて。頭上へ冠を、濃紫の袍へ身を包み、笏を携える雅やかなる人。爽やかな微笑みを浮かべた、西の帝であった。そして、其の隣には今や西の后妃にして、旭の妹百合の姿も。季節を魅せる色を幾重にも合わせた、何とも華やかな衣を纏うて。  旭、冷泉共に先ず其方へと厳かに頭を下げると、足を進め出した。 「――東の皇子様。並びに、東宮妃様。ようこそ御越し下さいました。御無沙汰致して居りましたな……御名を御許し下され。旭殿」
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