雅やかなる聖地にて。

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 百合は、思いがけず和泉の君――基。冷泉からの、そんな賛辞と微笑みとにぼんやり頬を染めてしまう始末。因みに、百合の脳内では、西の装束姿へ変換されて居る冷泉。そして、そんな百合の心情が手に取る様に分かる兄、旭。  しかし、其れは旭だけでは無い様子。笏で軽く口元を覆い、百合へ半眼で視線を送る水月。一瞬、其の表情は無であったが。 「百合、どうかしたのかな」  爽やかな笑みと共に、柔らかな声で百合へ声を掛けた。百合は、肩を跳ね我に返ると慌てて冷泉より視線を外した。 「えっ?い、いえっ……」  動揺からか、水月の顔色を伺いつつも、深呼吸の後で旭へと顔を向けて。 「あの、兄上……上皇――いえ。御義父上(おちちうえ)がお腰を傷めましたのは、とても心苦しい事ではありました。けれど、私はそんな御義父上の暖かな思い溢れる舞が、とても嬉しくて……此の西皇家へ御招き頂けました事は、素晴らしき御縁であると」  百合は、頬を染めながらもそう言葉にした。旭は、笑顔で頷いて必ず父へも伝えると。  其の後。少し遅れた上皇を迎え、会談を交わす。今回は、二重政略婚に関する様々な事が主なもの。此れは公務でもあるので、其処は問題無かった旭だが、其れも後半になるにつれ旭の緊張が増して居た。そう、男を見せねばならぬ時が迫っているのだと。 「――東西皇家にて、本年は節目ともなる大きなもの。二重政略婚とは、初にして此の年に相応しき試みと信じては居るが……そなた等へ、親としては申し訳無かったと思うて居るのだよ」
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