雅やかなる聖地にて。

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 多くを語り合いて、一息。西の上皇、桐壺(キリツボ)が、そんな事を溢した。其の表情は、笑みを浮かべながらも憂えるものに見えて。そんな父の、らしくない表情へ水月と冷泉が同時に口を開き掛けた、其れより僅か先に。 「上皇……!」  其れは、旭の声であった。そして、先ず驚く桐壺始め、冷泉、水月も声を止めてしまう。百合に至ってだが、己の知る兄らしからぬ、此の空気感の運びと目を丸くさせるばかりで。 「此の機会に、冷泉殿の御父君で在られる上皇へ、私より御話致したい事が御いまする」  桐壺も、幼き頃より知る旭らしからぬ雰囲気へ戸惑いがある様子。 「は……や、旭殿っ、そう畏まらず。楽に御話下され」  桐壺は、今回息子夫夫による突然の訪問については、佳宵より特に聞かされてはいないのだ。当然、構えも無いので、流れにも追い付けず。が、水月だけは違った様子。笏で覆った口元のみを、僅かに和ませて。  旭が、桐壺と水月へ頭を下げたままに口を開く。 「此度の婚姻、私にとっては、真に素晴らしき御縁と相成りました。冷泉殿の父君で在られまする上皇へ、心よりの感謝を申し上げまする」  此れに、上皇と百合が先ず驚きの感情を先ず前に。そして、旭の此の強い声へ、冷泉は込み上げる思いを堪えようと。  其々に、声を置く一瞬があったが。 「ど、どういう事か……旭殿……」  桐壺が、是非を問うと、旭の頭が徐に上がる。真っ直ぐと、桐壺を見据え。 「申しました通り。冷泉殿とは、唯一無二の伴侶として在りたいと……心から」  頬は染まるも、穏やかな笑みでそう告げた旭。桐壺は、思わず空いた口を笏で覆う。 「何と……真に……」
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