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「あの……冷泉様、其の……っ」
まだ言葉が出ずの百合。此処で。
「冷泉。百合はね、『あづき』の和泉を熱烈に支持して居るのだよ」
「帝っ……!?」
百合の夫である水月が、爽やかな笑顔で直球の暴露である。驚いた百合の顔は、みるみる真っ赤に染まり行く。そして、冷泉も。
「は……」
と、声が其処で止まった。隙を与えぬ水月が、更に。
「どうか、我が后の願いを叶えてやって欲しいのだ」
此の依頼に冷泉は勿論、旭も表情が固くなる。
「や、しかし……な、何をどうしろと……?」
素直な戸惑いを見せる冷泉だが、水月の方は変わり無くだ。穏やかな笑みは変わらない。
「暫し、共に庭でも歩いて語らってやってくれ。頼めるか?」
等と。
「其れは……」
冷泉は悩む。古より定められた規律慣例により、后妃の側へ付く者は、其の時、距離迄定められる。そして、冷泉も又東にて其れへ従わねば成らぬ身だ。そんな者同士、二人きりで語らいとは流石に、と。
「疚しき心無いお前には容易い事。お前だからこそ、后妃を任せるのだ……此の私が、帝として許そう」
水月には、硬い冷泉の戸惑いが手に取る様に分かる。己の許容を越えた兄の依頼に悩む弟が、又可愛く楽しく。思わず溢れそうな笏で口元を覆い答えを待ってみる。
悩みつつも、冷泉が旭へ顔を向けて頭を下げた。
「皇子。兄の声、后妃様への御持て成しを御許し頂けまするか……?」
こう迄言われると、冷泉も無下には出来ぬと。勿論、百合と二人きりとなろうが、疚しき思い等冷泉には微塵も無い。本心では気が進まぬが、夫である旭へ許しを乞う方向へ。
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