雅やかなる聖地にて。

13/35
前へ
/187ページ
次へ
「え……まぁ、兄姉となったのだし、な……うん。百合を宜しく頼むよ」  此の場で、水月の依頼ともなれば旭もつい許容。他者の顔色と雰囲気を見る癖が、胸に渦巻く複雑な思いを押しやる事となった。とは言え、表情がひきつるのは仕方無しと。  旭の許しを得て、今一度頭を下げた冷泉が、徐に腰を上げた。歩み寄るは、水月の隣へ腰を降ろす百合の元。深く頭を下げて、其処へ跪くと百合へと手を差し出しす冷泉。 「参りましょう。百合殿」  間近へと来た麗しい微笑みに、最早倒れそうな衝撃を受けた百合。脳内であてていた、和泉の声で名を呼ばれたと。 「えっ、あ、えっ……帝ぉ……あ、兄上ぇ……!」  眩し過ぎる『絵』を前に、かなりの動揺と混乱なのだろう。水月と旭へと、交互に涙目の顔を向けて何とも情けない声で。因みに、冷泉は此の百合の反応へ、己の振る舞いに無礼があったかと、生真面目に案じている様子であるが。 「う、うん。良かったなっ……暫し、あづき姫となって来い」  旭も妹の為となるべく余裕を見せようとするも、笑顔はぎこちないものだ。水月は、此の景色に溢れる笑みを一先ずおさめ。 「そなたへは、何時も寂しい思いをさせるな……私からの贈り物と思っておくれ」  百合は、水月のそんな言葉へ一瞬瞳を憂えさせる。此れに気が付いた旭は、少々気に掛かったが。 「旭殿へも、私が余興を用意して居りますのでな」  其れを打ち消すかの如く、更なる水月の追撃。旭が、目を丸くさせる。 「え……余興、とは?」 「冷泉の召し替えを合図としたので、そろそろ参りましょう」  等と宣い、水月が襖へ視線を向けた直後。 「蛍雪様を御通し致しまする」  厳かな女官の声が。聞こえた名へ目を見張り、固まる旭と冷泉。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

104人が本棚に入れています
本棚に追加