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首を傾げる冷泉。旭は、推しである蛍雪の事を知りたいのではなかったかと。しかし、旭は顔を俯けつつ。
「初めて会った日は、申し訳無いが朧気で……其の日限りだったろう……帝や蛍雪殿なら、冷泉をよく御存知かと、つい……」
と。此処で何やら気配を感じ顔を上げた旭の目の前に、冷泉の顔が。
「れ、れれ、冷泉……っ?」
旭の顔は茹で上がり、身は硬直。無理も無かろう。冷泉の此の雅やかな出で立ち、正しく『和泉の君』が目の前に。いや、旭の推しとは最早『蛍』でも『和泉』でも無く、冷泉其のものなのだろう。
熱を帯びる瞳で見詰める冷泉の指が、旭の顎へ触れる。
「真に、罪な御方だ」
「れ――」
途切れた、旭の声。冷泉の唇が、言葉を奪う。
「ん、う……っ、はぁ……」
深い口付けに、まだ慣れぬのだろう旭だが、其れでも冷泉を受け入れ様と。そんな旭の健気な様は、冷泉の心を強く揺さぶる。
解放された唇。乱れた呼吸を整えんとするも、其れは又違う感覚に邪魔をされ。
「れい、せ……あっ……ん……」
「旭……」
肌へ忍ばされた手。耳へ届いた冷泉の低い声、僅かに乱れ行く吐息、絹擦れの音。其れが、旭の身を奥より熱くさせて。
「あっ……やめ……っ」
止まらぬ指と唇に、声は恥じらいと僅かな理性を見せるも。
「止めては、此方がお辛いのでは……?」
耳元で囁かれた、意地の悪い言葉と旭の身を弄ぶ悪戯な指が触れたのは。
「あぁっ、ん……っ――」
最早、声ですら抗う事も出来ず。火照る身を冷泉へ寄せ、腕を回す旭。言葉無くも、艶を帯びた声と瞳に誘われ、求められ。冷泉は、募る思いのままに、いとおしい恋人を抱き締めるのだった。
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