雅やかなる聖地にて。

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 其の後。熱くも甘い時に溺れた二人であったが、乱れた冷泉の衣を整える為に、侍女を呼ぶとなって。 「――ま、待たれよっ」  小袖に大口袴と軽装で、襖へと踵を返した冷泉の裾を掴んだ旭。 「どうかなさいましたか」  其れは此方の台詞。どういう感覚かと狼狽える旭とは逆に、至極平静の冷泉。何があったか分からぬで無い状況、恥じらいは無いのかと。 「いやいやいやいやっ。か、斯様な姿でっ、人をとはっ……ひっ、一人では着れぬのかっ?」 「はい。手順等は学んで居りますが、此方は手を借りねば困難ですので……他のものは、出来ぬでも無いのですが」  平然と答えてくれる。旭は、最早言葉を詰まらせてしまった。西の貴人とはこうなのかと。立場上、旭も手を借りてとはなるが、東の衣は格式高いものであれ、基本時を掛ければ己でも着付けが出来る仕様。古より武を一等重んじる故か、早さと動きを重視する為の進化だろう。精々、格好を整えるに難解な裃位だろうか。  ふと、旭は此処で心に雲も掛かった。 「な、何か……慣れてる感じに見えるな……」  つい口にした言葉は、少し棘もあったかも知れない。冷泉の表情が変わる。 「皇子――」 「いやっ、良いよ……取り敢えず、私が着付ける迄待ってくれないか。此処で待つのも、何か、落ち着かぬので、さ……」  繕う様な硬い笑みと声でそう告げた旭は、己の衣を身に付けて行く。本来此処で、どっしり構えて居座れれば良いのやも知れぬが、旭はそういった性質ではないのだ。一先ず身なりを整えた旭は、頃合い迄席を外すと告げ庭へ向かったのだった。
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