雅やかなる聖地にて。

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「――又、やってしまったかな……」  庭へ佇む旭は、溜め息と共に思い悩む。先程の己が冷泉へ放った言葉。あれが、尾を引かぬかと案じて。けれど、飲み込めなかった。無性に腹が立って、つい言葉が。  幼い出会いから今迄、旭だけを思って居た冷泉。しかし、あの様に才溢れる美しい男だ。此れ迄何事も無くとは無かろう。其れに、初夜で聞いた――其れなりにある――経験とは、やはりそう言う事であろうと旭も理解している。だが、頭では理解しても心は追い付かぬ様だ。故に冷泉に対して、我が儘な思いも膨らんで。こんな事では、何時か愛想を尽かされまいかとも。  そんな晴れぬ思いに、重い溜め息を吐いた旭の後方より。 「――兄上」  耳に馴染む朗らかな声に、振り返って見ると女官を連れた笑顔の百合が。 「おお。何だ、帝とは居らぬのか」  目を丸くさせ何気無く出た言葉であったが、百合の表情は曇り俯いてしまう。 「う、ん……夜の準備もあるし……」  言いつつ、百合は女官へと遠慮がちな視線を送った。其の年配の女官は、百合の意向が分かるのだろう。優しい笑みを浮かべ、厳かに頭を下げると席を外してくれた。此れに旭は、女官の其の後ろ姿へ敬意込め頭を下げ見送る。百合も、此の西で少しずつ居場所を見付けて居る様だと。しかし、先程の寂しげな表情が気に掛かって。 「無粋は承知だが……水月殿とは、仲良くやって居るのか……?」  声にしてみた。百合は、俯き。 「帝は、何時も私に御優しいわ……でも……あの……兄上は、冷泉様と、其の……ちゃんと、御夫夫、なのよね……」
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