雅やかなる聖地にて。

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 先程知らされたものの、兄にとって此の政略婚はと言葉を求めた。旭は気恥ずかしさあれど、己が切り出した種だ。顔は熱くなるも頷き、肯定を示す。 「あ、ああ……まぁ……」  旭の反応は、今の百合にとっては複雑なものだ。勿論、兄の幸せを望む。嬉しくもある。が。 「兄上、何時和泉の君様へ鞍替えなさったの?」  優しい兄への甘えがつい出るのか、少々棘を含ませて。此れに旭は、辺りを軽く見渡し。 「おいっ、鞍替えとは人聞き悪いぞっ……そもそも、冷泉殿は冷泉殿で、和泉の君では無いっ」  焦って慌てる旭に一先ず満足したのか、百合は溢れた笑みを衣の袖で覆いつつ、後に溜め息も。 「お羨ましい……私と帝は、正に政略婚ですのよ。私等、何時も幼子扱いですもの……」  らしくなく、寂しげな百合の横顔とそんな言葉に、旭は案じた。やはり、百合も政略婚故の憂いを抱えていたかと。己もそうだ。何と言う運か、冷泉と思いを重ねる事は出来たものの、其れからも又悩む事は多く、尽きない。幸せな悩みもあるが、先程の如く己と冷泉にある差に、暗い思いが湧いたりと。  冷泉の美貌とは雰囲気が変わるも、水月も容顔真美麗。明朗で爽やかな雰囲気を醸すも、何処か影のある殿方。只、百合は旭とは異なり、華が無いとはならぬのだ。愛らしく朗らかで、純真で。皇女でありながら、其の親しみ易い人柄も手伝い、家臣等の支持も多くあった。恐らく、恋慕う者も少なく無かったろう。旭にしてみれば、『あづき』の如く物語の主役の様な姫だと。  そんな妹が見劣るとは思えぬと、旭は神妙な表情を浮かべる。 「水月殿は我等よりも、経験豊富な御方だ。若いお前を思いやり、心が育つのを待って下さって居るのでは無いかと思うのだが……」
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