雅やかなる聖地にて。

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 兄の言葉に少し希望を見出だしつつも、百合の瞳はまだ何処か憂えて。 「でも、何を考えておいでなのか分からなくて……」 「其処は済まぬが、私もだ。未だに思惑が一切読めぬ」  其処へ出来る助言は無いと、空かさず出た。 「そ、其処が、一番不安なのだけど……」  表情を引きつらせる百合だが、不意に旭の羽織を掴む。 「兄上。冷泉様へ助言頂けないかしら。兄君の事だもの、きっとよく御存知かと思われるし……」  先程のしおらしさから一変、強い意思を感じる瞳。夫を理解し、尽くそうとの心構えなのだろう。やはり、我が妹は物語の主役の如く、前向きな姫であると。が、此処でひとつ気になった旭は。 「冷泉殿と、お話がしたいのだな……?」 「其れもあります……!」  表情其のまま、真っ直ぐ兄を見据えはっきりと声にした妹の清々しさへ、旭の表情は無へ変わったと云う。  些か気は進まぬが、冷泉と百合への信頼は真のもの。百合の心中も気に掛かると。其れに、先程のやらかしもあったので、一人では戻りにくいと言う本音が。そろそろ着替えも済んだろうと、旭はあてがわれた客間へと百合を連れて戻って来た。何事も無かったかの如く衣も整えられ、入るなり厳かに迎えてくれた冷泉へ、又も百合は蕩けそうな表情であったが。  一先ず落ち着き、百合が改めて二人へ祝福を。僅かながら和んだ処で、切り出した百合の悩みへ返って来たのは。 「――申し訳御座いませぬ、后妃様。兄に関しては、私も未だに色々と追い付かずでして」  神妙な表情にて頭を下げ、百合へ此の様に。弟であり、長き年月を共にして居るにも関わらずかと、又も百合の表情はひきつる。更に、旭の表情も揃って。
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