雅やかなる聖地にて。

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「れ、冷泉様にも難題で在られるならば、もう仕方ありませぬ、ね……」  努めて笑みを浮かべようとする百合を、静かに見詰めていた冷泉であったが。 「只……兄の后妃様への振る舞いは、私にとって初めて見るものに見えまする」  徐に開いた口より、そう付け足した。しかし、百合は理解が追い付かずで。 「ど、どういう意味なのでしょう……?」  冷泉が声の前に、百合へと頭を下げた。 「言葉が浮かばず、無礼になれば申し訳無いのですが……兄は、后妃様へとても興味を示して居られます」 「きょ、興味……とは……」  もう一声と迫る百合へ、冷泉も言葉での表現が難解であると悩む。しかし、冷泉でさえ兄の真意が探れぬ様に、水月には己以外の者との距離が常に見えるのだ。其れはやはり、早くに母を亡くし、多忙な父とも触れ合えぬ幼少期も影響があるのか、卒の無い聞き分けの良過ぎる御子で在られたと。故に側室として控える冷泉の母とも、良好な間柄ではあるが、其れ迄と言おうか。そんな中で、本日冷泉が見た水月は、百合の表情や仕草、反応をとても楽しんで居られる様に見えたもので。  冷泉は、時折表現に詰まる口を笏で覆いつつも、感じたままを百合へ語り聞かせた。百合の顔へ、ほんのり赤みが射してきて。 「えぇ、と……では、す、少しは、私を御気に掛けて下さってるのかしら……」 「少し処か――いえ」  言葉を一度止める冷泉。此れ以上は、西の男として無粋であると。しかし、首を傾げて目を丸くさせている百合へ、麗しい微笑みを浮かべ。 「どうか此れ迄通り、兄を癒して下さいませ……お悩みは、案外早く解決なさるやも知れませぬので」 「は、はい……」
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