雅やかなる聖地にて。

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 激励を頂いた百合ではあったが、其れは果たして耳から頭へと届いたのか。そちらよりも、『和泉の君』様の麗しい微笑みへ、夢見心地であったと云う。  百合の悩みが、解決したか否かはともかく。冷泉と二人きりとなる事へ逃げた旭は、百合を送り届ける名目で部屋を出た。流石に奥へは迎えぬので、許される入り口付近迄共に。百合の姿を確認した侍女が、百合を迎えにやってくる様が。添えていた手を放してやると、旭へ頭を下げて。 「兄上も、悪い癖は治して下さいませね」 「何……?」 「とても良い子な処。冷泉様が、不安になるやも知れませぬよ」  そう言い、少しからかう様な笑みを。物申そうかと口を開き掛けた処で、御迎えが到着。旭と百合へと其の場へ拝する侍女等の姿に、旭は声を飲み込んだ。そして、侍女等へと一礼。百合は、扇子で溢れる笑みを隠そうとするが。 「ほうら、又」  と。旭は、何やら含みを感じると顔を上げたのだが、既に百合は背を向けていた。逃げる様に、早々と後宮へ向かう後ろ姿へ溜め息をひとつ。 「治せるものなら、とうに治しとるわ」  細やかな、小声での物言い。しかし、踵を返した足は重い。冷泉の待つ客間へ戻るのが、又気まずいと。俯いて歩いて居た旭だが、人の気配に何気に顔を上げる。 「あ、冷泉……」  冷泉は無言にて、一度旭へと頭を下げると突如其の手を取った。直後、旭の身は強く引かれてしまう。 「えっ?ちょっ……!」  前へのめった旭は、其のまま歩みを促された。声無く、足早に部屋へと手を引く冷泉。程無く部屋へと戻って来た二人の足は、其の奥へ辿り着いて漸く止まる。
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