雅やかなる聖地にて。

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「あの、わざわざ迎えに来ぬでも良いのでは……」  旭には、冷泉が怒って居る様に感じてしまい、気まずさに耐えられず声を出した。ひきつりつつも笑みを見せ、出来るだけ軽めの雰囲気で。処が、徐に旭を振り返った冷泉は、掴んでいた旭の手を両の掌で丁寧に包んだ。此れに驚く旭だが、冷泉へと顔を向けると其れは酷く神妙な面持ちで。 「旭。私が真に恋をしたのは、貴方様只御一人……どうか、婚姻前の私を御許し頂けぬか……!」  等と。先程の旭のやらかしへ、冷泉からは責める処か、謝罪が来たではないかと。しかも、斯様に懸命な眼差しで。驚きと己の程度の低さへ恥じ入り、全身燃える様に熱く頭も下がる。 「そ、そんな深刻にならないでくれ……ご、御免っ……私も、其の……無粋が過ぎたし……こ、恋人がひとりもいなかった訳も、無いしな……」  狼狽えつつ、冷泉へ己の非もあると声にする旭。が、最後の言葉は己で宣い、己を傷付けるものとなったが。  繊細で貞淑な東宮妃様は、過去の己の振る舞いを心より悔いて居る様だ。大切な旭へ、あの様な表情をさせてしまったと。実の処、旭が部屋を出て衣を整える間、気が気では無かったのだから。  憂える瞳の冷泉は、取った旭の手を徐に離すと、額を抱えて重い溜め息を吐いた。 「恋……真にお恥ずかしながら……其の様な御方ではありませぬ」 「え……」  旭は、冷泉の答えに顔を上げる。 「貴方との婚約が決まる迄の私は、何とも無様な男に御座いましたもので……」
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