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「こ、恋人、ではないのか……?」
旭の思い切った声。冷泉は暫し声を迷った様であったが、徐に口を開く。
「真に思う御方は、東の天子と成られる御方。己の立場もありまする故、貴方への思いを断ち切らんと。ですが、足掻けば足掻く程に、己を見失う様で……荒んだ日々に御座いました……恥じ入って居りまする」
冷泉は、嘗ての情けない己の姿を旭へ打ち明ける。前を向こうとしても、新たな恋は現れなかった。寄る花を拒む事無く、手折っては散らして。満たされぬ思いを偽り、戯れ、歌う。其れは、酷く空虚なものでしかなく。
「冷泉……」
旭は顔を真っ赤に染めて、冷泉を見詰める。其れ程迄に、冷泉の心にはずっと、己が居たと素直に嬉しさが込み上げた。冷泉が其の腕に、知らない誰かを抱いている姿を想像すると、傷付きはする。けれど。
「もう、良いよ……私こそ、全てが初めての事で……こうして、無粋な事を言わせてしまう……済まなかった」
旭は、冷泉の手を取り照れ臭そうに笑みを見せた。
「旭より謝罪頂く事等ありませぬ」
旭の手を引き、其の身を抱きしめる冷泉。腕の中で、身を寄せる旭だが。
「私は、こんな男だからさ……冷泉こそ、不満は無いのか……?」
不安そうに其の顔を覗き見ると、冷泉は微笑む。
「はい。貴方が私を見て下さるのなら、其れが望む全て」
旭の耳元へ届いた、優しく甘い声。旭は、冷泉の腕の中で力が抜けそうになってしまう。が。
「ですが」
突如声色の変わった低い声。条件反射か、僅かに跳ねた肩から全身に力が入った。
冷泉の手が、旭の顎を捕らえ。
「貴方の心を失えば、どうなるか……己でも分かりませぬ。旭も、あまり私を不安にさせないで頂きたい」
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