尻の下。

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「いいえ。此方こそ、お気を煩わせましたらば申し訳ありませぬ……日課故、欠かすと落ち着かず」  冷泉はそう話しながら、一先ず木刀を傍らの庭石へ立て掛けた。 「毎日、ですか……」  旭は、其処が気になった。古より、武を重んじてきた東の皇子である己にも、其の様な習慣は無いのだ。勿論、気性や思いの深さにより、高みを目指す事が望まれはする。だが、旭は其方へ熱意が持てず、義務の域を出ないからだろう。  冷泉は、声の前に一度軽く頭を下げて。 「ええ。私には、兄を御守りする役目も御座いましたので」 「えっ……や、しかし、皇子で在られたのでは……」  其の地位にいるならば、通常は帝、后妃に次ぐ権限を持つのだから。あらゆる機関を管轄する立場を任されるだろうに。其れが、兄の護衛とはと。冷泉は、此方の旭の疑問へも又頭を下げる。 「后妃様で在られる兄の母は、早くにお亡くなりになられました。私の母は、父が其の後向かえた側室に御座います。母が妃とされ、生まれた私へも地位をお与え下さいましたが、父は后妃様への敬意と兄の心を思い再婚はせず」 「え、では、西の現帝とは……」  言い淀む旭だが、冷泉は変わらず平静。静かに、頷く様に頭を下げて。 「異母兄弟となりまする。母を亡くして直ぐ、様々な思いがあったでしょう……にも関わらず、兄は私を受け入れて下さり、手を引き共に歩んで下さいました。そんな兄を支え、御守り出来る様にと……ですがこうして、貴方様の元へ」  語られた冷泉の複雑な立場へ、旭は言葉を迷う。其れに比べれば、己等気楽なものと。后妃であった母は少し前に天へ向かったものの、父は母以外を側へ置く事は無かった。子煩悩な父母、仲良き妹、暖かな雰囲気の中、此れ迄育って来たのだから。
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