雅やかなる聖地にて。

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「貴方は、真に可憐だ」  緊張で言葉紡げぬ旭とは違い、そんな甘い声で、甘い言葉を違和感無く口に出来る冷泉。旭の緊張は更に高まるも、其のまま塞がれる唇。 「ん……っ、ふ……」  深い口付け。熱に浮かされつつも、旭は心地好い感覚を味わう。帯が緩められた絹擦れの音に、僅かに強張る身。 「あ、あの……ひ、昼間も、こうならなかったか……?」  恥じらい俯く旭だが。 「分かって居られませぬな」  そう口にした冷泉は、旭の身を倒す。影を落とす冷泉の長い髪が、流れる様に旭の顔の側へ。近く迫る其の美しい容顔に、旭の胸が跳ねた。 「足りませぬよ」  低く耳元で囁かれた直後に、塞がれた唇。旭の疲労も、緊張も、恥じらいも、此の甘い声と優しい唇で欲と熱に変えられる。素直に浮かされ、求めて。遂にはせがんでしまうのだから。  次の日。流石に身が重く感じるものの、本日控える予定に、精神力のみで起き上がった。昨日は昼に続き夜もと、無理をさせた自覚ある冷泉から謝罪が。とは言え、次が無いかと言えばそうでも無かろう。本日は、水月と此れよりの在り方について、少々込み入った会談となる。勿論、此方の外交公務も重要で重きもの。しかし、旭にとって此方と同じ程に重要な瞬間が、後に控えて居る。  そう。東西にとてつもない旋風を起こした『あづき姫』の作者、夢紫――小紫――との対談である。 「――皇子。そちらではありませぬ、上へお控え下され」  水月との会談後、用意された部屋にて旭が緊張の余り、下の方へ腰をおろしたものだから冷泉からの突っ込みも。 「えっ、や、しかし……」  此れよりは、旭にとって大事過ぎて。此の動揺振りに、冷泉も流石に表情がひきつるが。
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