雅やかなる聖地にて。

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 様々な思いに声を忘れていた旭だが、何とか我に返る事が出来た。慌てて頭を下げる。 「お、面を上げて下され……御初に御目に掛かりまする。私は、東の帝、第一子。旭と父より賜りました者。以後、御見知りお気を」  と。挨拶は交わせたのだが、顔を上げた旭は、再び小紫と視線が合う。繊細で夢見る様な瞳で、旭をじっと見詰めてくる小紫。そして 「皇子様。暁に、よう似ていらっしゃいますの」  等とおっとり出た言葉と共に、無邪気に微笑んでくれた。 「え……」  旭は、小紫の此の純真過ぎる反応に更に驚く。しかし、冷泉は狼狽え。 「こ、小紫っ……も、申し訳御座いませぬ、皇子。小紫は、感受性が豊か過ぎるのか……己の調子を崩す事が、少々不得手で……っ」  らしく無く焦る冷泉は、旭へと懸命に小紫の個性を紹介し出した。拍子抜けした様な表情となる旭だが、遠慮がちに吹き出してしまう。国賓なる己への振る舞いに、従妹を庇おうとして居られると。心優しく、不器用ながら世話焼きな冷泉らしい。何にせよ、此れを切っ掛けに旭の心が和んだ。 「いや、冷泉。小紫殿へは、自然体で振る舞って頂きたいので……成る程、生まれ持った才と言う事ですな……我が妹の心酔振りも御存知かと。此の私も例に漏れず、小紫殿の世界観へ魅せられて居りまして……宜しければ、其の……『あづき』誕生の切っ掛け等を是非、お伺い出来ればと――」  旭の依頼へ、小紫は快諾。其の切っ掛けは、やはり宮中で注目を浴び出した冷泉と蛍雪の話題だと。此の二人を射止める事が出来るのは、どの様な人物であろうか、そんな好奇心が『あづき』の物語へ繋がったと。
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