雅やかなる聖地にて。

34/35

103人が本棚に入れています
本棚に追加
/187ページ
「――そ、そんなにも、支持があったのですな……やはり、華のある御方とは影響力が物凄い……」  此の話題に旭は、冷泉へ複雑な笑顔を向けた。冷泉が、固唾を飲みつつ。 「か、語る程では御座いませぬ……」  無理のある付け足しを。目を丸くさせ、そんな二人を不思議そうに眺める小紫であったが。 「皇子様。以前冷泉殿より皇子様が、私をとても支持して下さって居られると文を頂き、嬉しくて……此の度、皇子様の為に絵を描きましたの。御納め下されば、幸いに御座いますの」  一瞬、何を告げられたか思考が停止した旭だが。 「なっ……な、何と……っ!ままっ、真に御座いまするか……!」  旭は、半ば意識が飛びそうになる程に歓喜した。天にも昇るとは、此の事だろうかと。更に、冷泉が密やかにそんな事を伝えてくれて居た事も又嬉しくて。  程無く開かれた襖より、美しい黒塗りの平たい箱が運び込まれる。其れは、三つ。どうも、小紫は旭の為に絵を三枚も描いてくれた様であった。絵師と名乗るには烏滸がましいが、己も端にて絵を手掛けた経験のある身。手の掛け様に寄るものの、何れ程時と労力を要するかは理解している。加え、売れっ子作家の小紫は多忙に違い無いのだ。其の上で斯様に貴重なものを己の為にと、心遣いに胸が熱くなる。  確認を促された旭は、端より順に。一つ目から、眩暈を覚える程の幻想的な戯画が。あづきが舞う桜を笑顔で眺める姿へ、蛍の君も傍らで微笑みを浮かべるもの。二つ目は、旭の推しである蛍の君のみが。蛍の君が好む花、桜の舞う中で龍笛を奏でる何とも麗しい絵である。そして、三つ目は和泉の君のみ。冷泉、基。和泉の君が好む紅花を眺め、穏やかな微笑みを浮かべる姿に、旭は頬を染め暫し見惚れてしまった。  全てを確認し終えた旭は、感激のあまり涙を浮かべて居た程であったと云う。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

103人が本棚に入れています
本棚に追加