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「――そ、そんなにも、支持があったのですな……やはり、華のある御方とは影響力が物凄い……」
此の話題に旭は、冷泉へ複雑な笑顔を向けた。冷泉が、固唾を飲みつつ。
「か、語る程では御座いませぬ……」
無理のある付け足しを。目を丸くさせ、そんな二人を不思議そうに眺める小紫であったが。
「皇子様。以前冷泉殿より皇子様が、私をとても支持して下さって居られると文を頂き、嬉しくて……此の度、皇子様の為に絵を描きましたの。御納め下されば、幸いに御座いますの」
一瞬、何を告げられたか思考が停止した旭だが。
「なっ……な、何と……っ!ままっ、真に御座いまするか……!」
旭は、半ば意識が飛びそうになる程に歓喜した。天にも昇るとは、此の事だろうかと。更に、冷泉が密やかにそんな事を伝えてくれて居た事も又嬉しくて。
程無く開かれた襖より、美しい黒塗りの平たい箱が運び込まれる。其れは、三つ。どうも、小紫は旭の為に絵を三枚も描いてくれた様であった。絵師と名乗るには烏滸がましいが、己も端にて絵を手掛けた経験のある身。手の掛け様に寄るものの、何れ程時と労力を要するかは理解している。加え、売れっ子作家の小紫は多忙に違い無いのだ。其の上で斯様に貴重なものを己の為にと、心遣いに胸が熱くなる。
確認を促された旭は、端より順に。一つ目から、眩暈を覚える程の幻想的な戯画が。あづきが舞う桜を笑顔で眺める姿へ、蛍の君も傍らで微笑みを浮かべるもの。二つ目は、旭の推しである蛍の君のみが。蛍の君が好む花、桜の舞う中で龍笛を奏でる何とも麗しい絵である。そして、三つ目は和泉の君のみ。冷泉、基。和泉の君が好む紅花を眺め、穏やかな微笑みを浮かべる姿に、旭は頬を染め暫し見惚れてしまった。
全てを確認し終えた旭は、感激のあまり涙を浮かべて居た程であったと云う。
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