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旭と冷泉が、西の帝並びに上皇へと此度の政略結婚への思いを無事報告する事が叶った。西の上皇、桐壺と、東の帝、佳宵も予想に至らなかったものであった。
今日に至る迄の長い両国の歴史で、全く政略婚が無かった訳では無い。同性間で行われた婚姻も勿論、もう何組かと。しかし、東西国交に於いて両皇家の婚姻は、最も大きな変化をもたらした初回移行、両国友好と絆を更に深める為に、又民達の隣国への思いや結び付きを更に強く意識させる為の、所謂政治的な動きが色濃くあったのだ。勿論、中には政略結婚であれ、最期迄仲睦まじく居る『めおと』も居た。だが、稀少であったからこそ、美談として記録が残って居ると云うた処か。
故に。今回もたらされた報告は、佳宵と桐壺には、親として何よりの結果と相成り。佳宵は、桐壺へ此方の時も満ちたと、文を認めたのだった。
其の日。御所へと呼ばれた旭と冷泉。
「――旭。そなたへ、此の東を任せようかと思う」
御所謁見の間にて、拝する旭と冷泉へ告げられた言葉。
「謹んで、御受け取り致しまする」
拝したまま厳かに答えた旭の声へ、佳宵が優しく微笑む。
「二人共、面を上げ楽にせい……旭よ、真に良い顔となった。冷泉殿、そなたの御力でもある様だ。有難う」
旭の顔が上がってから、次に冷泉も徐に。
「飛んでも御座いませぬ、帝……此の私こそ、皇子へ救われました。全てを捧げ、御恩へ報いる事が出来たらばと」
強くそう誓う冷泉。相変わらず、生真面目なこと。傍らで苦笑いを浮かべる息子の、幸せそうな顔が佳宵の視界へ。優しい笑みで頷いてやる佳宵。
「そなたを向かえる事が出来て良かった。旭を支えてやっておくれ……冷泉」
「はっ……!」
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