恋わたるかも。

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「え……あっ、いや、其のっ……」  白刃には、中途半端な誤魔化しは利かない様だ。旭は、確信を突かれた情けなさ、面目無くなさに俯いてしまう。其の顔は真っ赤で。  しかし。気になるのは、白刃が口にした心配は無用との言葉。然り気無く白刃の顔を覗き込みつつ。 「な、何故、心配は無用と……?」  遠慮がちに問う旭へ、白刃は微笑み声の前に頭を下げる。 「実は、嚆矢も皇子様と同じく『あづき姫』の支持者でして……東宮妃様への思いは、『和泉の君』を強く推して居るからです」  苦笑いを浮かべ、同僚の密やかな趣向を明かした白刃。其処よりも、旭には意外過ぎる嚆矢の一面と、推しは違えどあづき支持の同志が身近にとの高揚感へ、何かが胸に込み上げた。 「え……こっ、嚆矢もなのか!?」  前のめりになる旭の身。白刃は相変わらずの落ち着き振り。 「はい。何より、彼には現在恋人が居ります」  そして、更にぶち込まれた私的な情報も。旭の驚きは止まらない。 「えっ!?……こ、恋人……真かっ」 「はい」  そして、全く温度差の違う白刃。  其れにしてもと。斯様な事をようも此処迄冷静に、自然体で語るとは白刃も中々。白刃と嚆矢は、同期だが配属部隊は違うと情報にあった。そう接点は無い様に思っていたが、深い交流があったということかと。 「しかし、真華やかで、支持も多い嚆矢に恋人とは、百合からも聞かなかった……大変な事実ではないか」  改めて、知らされた話の重みを実感する。そうだ。百合からの話では、嚆矢も密やかに多くの支持を抱える、正に治安維持部隊の華。其の嚆矢の心を射止めた者の存在。  白刃も、些か神妙に頭を下げて。 「はい。彼に熱心な支持者が多いのは事実です。故、どうか御内密に」
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