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白刃は、己への信頼から語ってくれたのだ。勿論、其の心を裏切る等有り得ぬと、強く頷く旭。
「承知した。あの……では、御相手は、白刃も知る者か……?」
少々無粋な好奇心だが、兄の如く慕った白刃へは、甘えもあるのだろう旭。此処迄来れば、いっそと。そんな様子へ、変わらず穏やかで落ち着いた微笑みを崩さず。
そして。
「私です」
まさかの暴露を、此れ又極自然に。其の大きな衝撃へ、旭は身も表情も固まってしまった。
「え、は……っ!?」
動揺から出た声は、言葉にならず。そんな旭へ、白刃は苦笑いを浮かべて。
「実は、皇女様から紆余曲折経て読本を御借りしたらしく、其れよりあづき姫の虜に。ああ見えて、直ぐに影響を受けるのですよ……まぁ、其処が可愛いのですが」
穏やかな声、表情。白刃の其れは、愛する人を思い、語る恋人の顔だ。とても優しくて、旭の知るものとは全く違ったものであった。白刃の意外な表情と、初めて明かしてくれた私的な話。旭は、思わぬ処より白刃との絆が深まった思いに、心が軽く、そして暖かくなった気がしたのだった。
「では、後宮へ御送り致します。参りましょう」
何時もの如く、落ち着いた声で旭を促す白刃へ旭も腰を上げる。
部屋を出て、後宮へと足を進めながら。
「し、白刃は、其の、不安とかないのか……?」
辺りへ気を張りつつ、小声でそんな事を切り出した旭へ、白刃が頭を下げる。
「そうですね。此方での後宮護衛を任命された時は、流石に浮かれて居りましたので……多少、妬けはしました」
「そうだろうな」
白刃の当初の心情は、旭も理解出来る。神妙に頷いてしまう程に。だが、白刃は微笑む。
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