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「皇子。私が男子の后であるから、拒むのですか?此れは政略婚なのですよ。目合い迄は、義務に御座いましょう」
「義務……」
旭は、冷泉より出た其の言葉に妙な思いが湧く。何であろうか、初めて心に受ける衝撃で形容はし難く。故に、一瞬呆けてしまったが次には憤りが。旭は、思わず立ち上がり強く冷泉を見据えた。
「ええっ、そうですよ!貴方との婚姻も義務ですっ。ですが、此ればかりは容易く受け入れる事は出来ませぬぞ。そもそも、何故私が勝手に受け入れる側と決め付けなさる……!」
宵だというに、少々荒い物言い。そんな旭とは真逆に、冷泉はやはり動じる事は無く。
「ですから、御伺いしましたでしょう。玄人で有られるかと。皇子が玄人で有られるならば、私はお任せする覚悟に御座いました。ですが、男女共へ清い身と仰ったではありませぬか」
又も言い返せぬ突っ込みだ。しかも、こんなにも温度差がある静かな声で。徐々に肩を落とし、背中も丸くなっていく旭。
「そ、其れは、そう、ですが……こ、子を望めるでもないでしょうに……」
遂には、拗ねた様に顔を背け冷泉より静かな声に。旭の此の言葉に、冷泉の瞳は一瞬酷く哀しげに憂えた。だが其れは、旭が気付かぬ内に厳格な面持ちへ。
「ええ。父より事情は聞かされて居ります。皇子は、側室を望まれるでしょう……ですが、先で貴方の后妃は私となります。他への示しの為にも、私が此処へ居る資格をお与え頂きたい」
静かではあるが、強い声であった。よく考えてみれば、冷泉の地位は旭以上に縛りがあるもの。後宮を管理する立場を与えられながらも、先で帝となる旭以外の者へ心浮わつかせるは重罪となる。故に、性への禁欲を強いられるのだから。勿論、此処は其の時世を握る帝の融通もあるだろうが。
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