尻の下。

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「う……わ、分かりました……けど、やはり、其の……もう少し……」  改めて冷泉の立場を思うと、人の良い旭は同情してしまう。結果、今宵も弱気に引き延ばしを乞う形へ。昨夜と同じく、冷泉の重い沈黙が旭を不安にさせる。軈て、静かな深い息を吐く冷泉。 「では、何れ程御待ちすれば宜しいのですか」 「ど、何れ程……き、期限を設けるのですか……っ」  期限。此れを答えるとなると、難である。告げた期限が来ても、勇気が出なければどうするのだと。追い詰められた旭は固唾を飲み、全身に嫌な汗をかく。 「あ、えぇと……では……こ、此の蜜月の、年の内には……全てを、捧げまする……」  年内とした。今が初夏であるので、何れ程引き伸ばしても年の暮れは其の日となろう。冷泉の圧籠る沈黙に、旭の身は又震え縮む。 「承知致しました。遅くとも、年の暮れ……気長に御待ちしてみましょう」  何と、了承頂いたと旭は顔を上げた。 「あ、有り難う御座います……っ」 「では。お休みなさいませ」  今宵も、冷泉は手を付き頭を下げると早々に布団の中へ。旭も同じく、其の反対側の隅へ。やはり、まだ冷泉へ警戒をしてしまう様だ。しかし、本日は結構な疲労も手伝い直ぐに眠気が。明日からは、旭も又公務に時を縛られよう。と言うのに、唯一心安らぐ寝室が此れより緊張漂う空間と化すのだから。運命の日迄寝室を別には出来ぬかと頭の隅で思いつつ、眠りに就いた旭であった。  広い布団で背を向け合うたまま、其の距離も又遠く。変わらぬ空間に、変わらず朝は来る。昨夜と同じく、冷泉は明かりが射す迄に身を起こした。日課の鍛練へと、もう身に染み付いているのだろう。
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