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執務室の表より聞こえた、護衛の青年の声に筆を止める旭。瑠璃とは昨日の宴にも居た従姉で、主に外交を任される東皇家筆頭格なる人物の第一子である。気丈で凛々しく美しい瞳に、女子の支持が多い才色兼備。何れ、父より其の職務を受け継ぐ者となろう。
故に、本日も公務に関して参ったのだととらえた旭。
「ああ。通してくれ」
入室を許可すると、静かに襖が開かれた。中へと静かに進める足音。おっとりとした微笑み浮かべる美しい姫は、旭へと拝する。
「面を上げよ。そなたが来たと言う事は、今回の婚姻に際しての動きか」
と、促してみた処。素早く迫る様に、旭の机迄寄って来たではないか。其の意表を付かれた動きに、旭は思わず後方へ身を引いてしまった程。
「其れもあるのだけど……どうなの、旭、冷泉様とは」
突然、踏み込んだ一声に旭は戸惑うばかり。
「どう、とは……何が」
何を答えろと言うのだ。眉間へ皺を寄せる旭へ、瑠璃は深い溜め息を広げた扇で覆う。
「私に其処迄を言わせないで欲しいわ……だから、女子にも男子にも指示を頂けないのよ」
呆れた声と共に、容赦ない心への斬撃。握り締めた拳を机上にて震えさせる旭。
「っ……仕事に来たのでは無いのかっ」
今は執務中だと、出来る限り冷静に。
「先ずは此方に答えを。初夜は、どうなったのです」
今度は言葉を何に包むでもなく、確りと告げてきた瑠璃へ、旭は口角をひきつらせた。
「結局言葉にするか……どうもこうも、まだ何も無いっ」
取り敢えず答えを与えてやると、瑠璃は憂える瞳で又溜め息だ。
「まぁ……旭は素朴で可愛いのだけれど、華やかさと色気に欠けるのよね……」
等と。旭は、拗ねた様に顔を背けてしまう。
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