尻の下。

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 しかし。どうでも良い事と旭は、溜め息を付き。 「別に。彼方も私等が夫と言う事で、余所を眺めたくもなろうさ」  等と。冷泉が誰をどう思おうが興味無いと格好を付けるも、言いながら此れも又気分が悪くなるのは何故か。だが、旭の手を包んでいた瑠璃の両手に突如力が込められた。旭は驚き、背けていた顔を瑠璃へ向けると。其の表情は、何とも苦し気で、絶望も見えた。瑠璃の心象的には、余りにも相応しからぬものだ。そんな瑠璃から出た言葉とは。 「嫌なのよっ、見たくないのよっ。和泉の君様があづき姫以外の、何処の何方とも知れない姫や貴公子を愛でる御姿なんて……!でも、旭なら……あらゆる面で自己主張の弱い、旭ならば許せるわっ……!」 「其れは、どういう……」  理屈で仕上がっているのだと、ひきつる旭の口角。強く握り締められた瑠璃の手は、更に力が込められる。 「従姉妹等揃って、満場一致よ。旭、何としても泉の君様の御心を掴むのよ!良いこと?何人にも負けるのではありませんよっ!」  又も、瑠璃の中で冷泉が泉の君へ姿を変えた。 「え、えぇ……っ」  戸惑いを声に乗せる旭に、逆らう余地等無く。そう強く訴えた後で、瑠璃は次いでの如く仕事に関する書簡を机上へ置いて早々に去って行ったのだった。執務室にて、取り残された様な思いに呆然とする旭の姿があったと言う。  一方。後宮にて宛がわれた部屋で、書を広げていた冷泉。特にする事も無く退屈なものだと、頁を捲る手を止め溜め息が出る。無理も無い。冷泉は、つい先日迄兄である西の現帝に付き公務を担っていた身。更に、兄が皇子であった頃は、兄の護衛を任される程優秀な武官でもあった。こんなにも自由を与えられるのは極幼い頃以来で、戸惑いの方が大きく。
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