尻の下。

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 己の私室へ駆け込み、龍笛を握り締め素早く冷泉の部屋へと戻った旭。途中、擦れ違う侍女等も拝処か、頭を下げる間も与えてくれぬ旭へ目を丸くさせる姿も。 「――はぁっ、おっ、御待たせ致した……っ」  駆けた為に、荒くなった呼吸。ひきつった笑みを浮かべ龍笛を握る旭へ、冷泉は手を付け頭を下げる。 「皇子の御心遣い、嬉しゅう御座います……では、共に」  冷泉は、再び筝へ身を向けると其の弦を弾き出した。奏でられる音色。其れは、東西共に楽を習得するに基本となる最も知られているものであった。旭も、此れならば気負わずに奏でられると龍笛を唇へ。共に奏でられる音色。其れは、美しく正しき旋律。だが。  冷泉の筝の音が止む。まだ少し曲は続く筈であったのだが、旭も笛を唇より離した。 「有り難う御座います。良き時に御座いました」  再び旭へと手を付き、礼を述べた冷泉。取り敢えず満足されたのだろうか、安堵した旭も頭を下げる。 「あ、いえ……此方こそ」 「我が儘を御聞き入れ頂き、嬉しゅう御座いました。御公務、御身体に無理なき様に」  との事。解放して頂けると、旭の表情が和らいでゆく。 「有り難う御座います。では、又……」  ならば早々に退散と腰を上げて、旭は冷泉へ背を向け襖へ手を掛けた。処で、背後より迫った影に思わず動きが止まる。 「皇子」  近く聞こえた、低い静かな声。妙な緊張が走り、硬直した旭の背後より冷泉の片腕が襖へと静かに付けられた。振り向かずとも、直ぐ後ろに冷泉の体があると分かる。襖と冷泉に挟まれる格好となってしまった旭。此れは、恐怖だろうか。胸が大きな音を立てて暴れている様にも思える感覚。何故か体が熱くて、苦しくもある。其れでも旭は、徐に冷泉を振り返った。
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