尻の下。

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「悪い事、したな……」  冷泉が会話や趣味を楽しむ相手は、どうしても極限られた枠の中となる。其れを、夫となった己迄が向き合わず、逃げに徹する等と只の意地悪だと。己がされたなら、どう思うかと今一度考えた旭。手に握り締めたままであった龍笛に、此処で漸く気が付いた。暫し其れを見詰めた後で、己の懐へしまうと公務に筆を取り出す。今夜は、早く切り上げて寝室に向かおうと。そして、冷泉へ詫びねばならないと。  と、其の時は本当に心から思うたのだが。寝室に居ると、やはり気は小さく弱くなる。しかし、謝罪はせねばなるまいと。そんな緊張の中。 「皇子様。東宮妃様がいらっしゃいました」  皐月の声だ。旭は気を奮い立たせる。静かな襖の開閉の後で、近付く足音。御帳へと入って来た冷泉は、一先ず旭へ手を付き頭を下げる。が。 「か、構いません……其の、畏まるのは、もう止めましょう……」  上がった冷泉の表情は些か怪訝。 「は……しかし……」 「わ、分かりますっ……ある程度の慣例は、必要かと……ですが、何時迄も堅苦しいと、其の……会話も、しにくいというか……」  まだ冷泉の瞳が怖く、視線は泳ぐが取り敢えず告げたい言葉は粗方声に出来た。冷泉は、沈黙する。此の沈黙が慣れぬ旭は、どう返されるのかと固唾を飲む。 「では、寝室から御帳、布団へは普通に入る方が、皇子は好ましいと」 「そ、そうです、ね……」 「畏まりました。改めまする」  意外にあっさりと受け入れてくれた冷泉へ、旭は驚きもありつつ気持ちが和らぐ。今なら、一番言わなければならない言葉が言えそうだと。 「あのっ、其れと……昼間は、其の……御免なさい……」  冷泉にとっては、いきなり謝罪と共に頭を下げられた形。なもので、冷泉は此れにも怪訝な表情。 「何の事に御座いますか」
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