『和泉の君』様、攻略の道。

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 東宮妃、冷泉との距離はまだまだ遠いだろう。しかし、後退は不可能と諦めの一歩。いや、半歩を踏み出した旭。何の因果か皮肉か、己が愛読する読本、『あづき姫の恋日記』の推しの道とは真逆へ足を踏み込んでいると複雑な思いもありつつ。もし此れが、百合であったならば涙を流し両手を広げ駆け行く道であろうが。  やって来た朝。本日も、冷泉が先に目覚めた様子。旭も欠伸をしつつ、湯浴みへと寝室を出た処。 「――お早う御座います。皇子」  後方より聞こえたのは、冷泉の声。振り返ると、丁寧に頭を下げてくれる姿。旭と同じく纏うは寝衣、長い髪は邪魔にならぬ程度に、首の辺りで軽く纏められている。  旭も慌てて、身を正し同じく頭を下げて。 「お、お早う御座います……朝の鍛練ですか」  徐に上がった旭と冷泉の頭。 「ええ。まだ、自然と目が覚めてしまうので……皇子も、此れより御公務へ?」 「はい。湯浴みの後で、朝餉を……」  と、何の気無しに口にした旭の言葉が切っ掛けとなる。 「思うて居ったのですが、其々時に縛りあらばともかく、こうして同じ時に動くのでしたらば、朝餉は共に頂くのが家族と言うものでは?」  何やら、旭にとって流れが不穏である。しかし。 「えっ……あ、た、確かに……」  尻の下からでは、肯定しか出来ない。冷泉の厳格な瞳は其のまま。続いた言葉は。 「では、此れより時が重なる日は共に頂く事と致しましょう。我等の在り方は、東西の友好へ繋がります故」  朝の食事を共に。昨日迄は、旭にとって唯一心安らぐ空間の一つであったと言うのに。主たる己の反論も許さぬ瞳で、取り決めるとは。拳を握る旭。だが。 「しょっ、承知致しました……又後程」
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