『和泉の君』様、攻略の道。

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 やはり、尻の下である。ひきつった笑みを浮かべ、肯定を示したという。  双方個々に用意された浴室にて湯浴みを済ませ、朝餉の席へと付いた。上に旭、直ぐ左下へ冷泉。給仕等は、新婚の朝餉であると要らぬ気を利かし部屋の外へ。二人きりの朝餉、静かに箸を取る音位しか音の無い空間。  己から共に朝餉をと言うて置きながら、冷泉から声掛けの一声は無い。此れは、試されているのだろうかと旭は緊張の中。 「あのっ……西では、常に龍笛を身に付ける方が多いと……私も、見習って持っていようかと……」  愛想笑いと共に、勇気の一声。冷泉は、一度箸を置き旭へ顔を向けた。 「皇子も楽に興味が?」 「あ、いえ……私の技量は、極平均でして……冷泉殿には及びませぬが……」  旭も一度箸を置いて、素直に答えた。己の技量は、昨日で知れてしまったので見栄も張れまい。少し照れた様に苦笑いを見せた旭へ、冷泉の表情が和らいだ。 「皇子は、何に興味を惹かれるのでしょうか」  興味。そう問われると、現在の旭にとっては断然『あづき姫の恋日記』である。見る限り冷泉の心象では、斯様な分野で分かり合えるとは到底思えぬ。しかし、其の評判位は知っていようかと。何せ、人気登場人物にこんなにも姿の似る皇子だし。聞いてみるか、と旭は喉を鳴らす。もし分かり合えたなら、友としての扉が大きく開く。しかし、よしんば『あづき姫の恋日記』を指示していたとしても、冷泉の推しは恐らく――。 「そ、そうですな。絵を描く事等は、幼い頃より好んで参りました」  下手に話を振って、あの鋭い瞳で睨みを利かされれば言葉を忘れるだろう。議論等以ての外、勝敗は見えている。と、無難な趣味を口にしていた小心者な旭。とは言え、此方の趣味も身内以外の誰かに改めて話す機会が無かったもので、旭には少々気恥ずかしさもあり。
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