103人が本棚に入れています
本棚に追加
/187ページ
「ほう。高尚な趣味で在られますな……して、どの様なものを」
「あの……人物画ですが、写実的と言うよりは……其の、戯画に近いもので……」
絵が趣味と言え、風景画や人物画と多様なものを描くと言うより、旭が好んで描く分野には偏りがあるのだ。最近は、専ら『あずき姫の恋日記』の登場人物を描く事が多いのだが。やはり何となく、冷泉には其処を伏せてしまう。が、冷泉は何故か絵という話題に表情が和やかだ。
「そうですか。是非とも拝見してみとう御座います」
社交辞令だろう言葉と分かっていても、己が好む分野へ興味を向ける言葉を貰うと嬉しいもの。旭も素直に嬉しくて、つい表情が緩むが。
「私の絵ですか……いや、此れも平均と言いますか……御見せする程のものでも……」
そうなのだ。此方の技量も極平均、平凡な旭。作者の描く美麗なものには程遠いが、決して悪くも無いという何とも絶妙な線。強いて誉められる処があるならば、模写にあらず己の個性は取り入れた画風であると言う処か。
俯く旭へ、冷泉が口を開く。
「お恥ずかしながら……私は絵を描けませぬ故、皇子を尊敬致します。御許し頂けるならば、是非」
やはり嬉しい。と、旭は頬を染めながら表情は更に緩んでしまう。
「そう、ですか……では、少しなら御見せしようかな……」
気分も良いので、其れ用に何か描いてみるかと。だが。
「光栄に御座います。楽しみにしておりますので、本日中に」
さらりと期限を決定され、再び箸を取り出した冷泉へ旭は我に返る。
「ほっ、本日中に御座いますかっ……流石に、本日絵を描くのは……」
「勿論、そんな無茶は申しませぬ。皇子が既に描かれたものをお見せ下され。御待ち申して居ります」
最初のコメントを投稿しよう!