やって来た東宮妃。

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 と、当の父帝にこう言われては逃げ場が無い。此の世の婚姻とは、様々な事情を抱え結ばれるものが溢れる。経済的に家を守る為に、厚い信頼関係、恩義に報いる為等々。勿論、愛し愛され共に生きる事が一等重きであるが。其れ等は異性同性も問わず結ばれる、先の生涯への契約の意味も持つ大きなもので、勿論離縁は容易く出来ない。其れは、身分が高ければ高い程に重責を担うのだから。 「し、しかし……っ」  更に物言い掛けるも、言葉は続かずに俯く旭。正直、女だ男だ処か色を知らぬ奥手皇子。穏やかで優しい者が来れば良いが、どんな御方がと不安でならない。 「其れにほれ、百合に子が二人程出来たらば貰う手もあるしな。東西皇家は、最早身内も同然なのだし」  どうとでもなると、明るく笑う佳宵。何とも気楽な父が羨ましい、と言うより此の日ばかりは苛立ちすら込み上げた旭であった。  謁見を済ませた旭は肩を落とし、浮かない表情で私室へと戻る途中、背後より声を掛けられた。 「――旭」  聞き覚えある声に顔を上げ、振り返った視界には。 「鑑(カガミ)……参内していたのか……」  皇家の従兄弟である、鑑であった。彼は旭と同じ年でもあり、従兄弟でも馴染み深い間柄。其の気性は朗らかで、親しみやすさを感じさせる。色恋にも器用で、少々軟派なところが玉に瑕か。因みに、彼の家は主に国防を司る。  肩を落とす旭へ、歩み寄る鑑。 「父上の遣いでな。しかし暗いな……例の件か?何があった」  軽く肩を叩き、話の種をと。此処にもお気楽者が居た様子、呆れる溜め息が出る旭だが。 「いや……どうも該当者が彼方も皇子らしくて……」  今は、どうにも愚痴を溢したい気分。話の種を提供してやった。しかし、鑑も鑑で馴染みある旭の影を少しでも払うてやろうと軽く笑いながら。
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