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「済まぬが、本日は昨日より忙し――」
「旭。此れを」
書類を遮る様に、旭の視界へ入って来たひとつの包み。仕事の書類には見えぬ、何かの冊子の様な。旭は、怪訝な表情で其れを受け取ってみる。
「何だ、此れは……?」
手の其れを眺め一言。瑠璃は、呆れた様に溜め息を吐いた。
「やっぱり、知らなかったのね……此れは、『別冊。あづき姫の恋日記。登場人物特別解説図鑑』。何と、夢紫(ユメムラサキ)殿の書き下ろし戯画付きよ……!」
輝く瞳で包みを紹介した瑠璃へ、旭の瞳も輝き出す。そして、包みを持つ手も両手となり、震え出す。が、表情は徐々に悔しげに涙を滲ませて。
「なっ、何だと……!夢紫殿の新刊か!私とした事が、予約をしておらぬ……!」
旭の後悔は大きい。婚儀の準備や、其れ迄の公務の調整と追われていた旭は多忙であったもので。まさか、斯様に貴重なものを逃すとは何足る不覚。因みに夢紫とは、言わずもがな『あづき姫の恋日記』の作者だ。
羨ましげに読本を手に、鼻を啜る旭へ瑠璃が微笑む。
「と、思って……其れが旭の分よ。本日から、順次受け取りだったの」
まさかの瑠璃の言葉。旭には、此の時瑠璃が女神にも見えたと言う。
「有難い!恩に着る、瑠璃殿……!」
「只、此れは完全予約一人一冊の限定発売で保存と手持ちを揃えるのは困難なの……其れは、『あづき姫』に興味が薄い家臣へ個人で予約して貰ったから」
「此の一冊を手に入れられた事が奇跡だ……有り難う!有り難う……!」
涙滲ませ頭を下げる旭へ、瑠璃も甲斐あったと頷き微笑む。で。
「そう言う訳で、此れを参考に冷泉様を攻略するのよ」
「は……?」
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