『和泉の君』様、攻略の道。

7/12

103人が本棚に入れています
本棚に追加
/187ページ
 間が抜けた表情で固まる旭から読本を取り上げた瑠璃は、ある頁を開き旭へと確認させる。其の頁には西の装いを纏った冷泉、基。和泉の君の美麗な絵と共に、様々な項目に分けられずらりと字が並ぶ。何と其れは。 「御覧なさい。此処から、和泉の君様の御紹介があるのよ。御誕生日、血の型、性質、御趣味や特技等、あらゆる嗜好について迄」  真剣な眼差しで語る瑠璃だが、此れの突っ込み処に旭は我に返る。 「待て待てっ。流石に、冷泉殿と和泉の君の好みが被るとはならぬだろうに。何の助けにもならぬわっ」  流石に、其れは夢を見過ぎだと。 「でも、被るかも知れないでしょうっ。折角用立てたのだから、役に立て――いけない、父上に会議へ出席するよう言われていたのだったわ。ではね、又定期報告を伺いに来るわ」  急用を思い出した様で、説教をしながらも拝は美しい。早々に退散した瑠璃は、まさに風の如く。 「て、定期報告とは、な、何なのだ……」  置いてきぼり、とは此の事か。読本の頁を開いたまま呆然としていたが、何気にそちらへ視線を落としてみた。和泉の君の美しい戯画が、やはり一番に目に付く。改めて和泉の君の戯画を眺めるのは、初めてやも知れない。本当に、冷泉が其のまま描かれている様だ。鋭く厳格な眼差し、それでいて雅やかな貴公子。旭は、無意識に其の絵を指でなぞる様に触れて。  が、我に返り読本を慌てて閉じてしまう。 「こっ、こんな事をして居る暇は無い……っ」  独り言で己を律する旭。其の顔は、何故か耳迄真っ赤。更には、鼓動も煩く。  とは言え。暫く執務に集中していると、落ち着いてはくるもの。瑠璃が招いた気の迷いだろうと捨て置いた。だが、手直しする絵を前に又も妙な意識が旭を苛んだり。其れでも何とか其れを仕上げた旭は、達成感に満ち溢れていた。其の出来は、変わらず『普通』の域は出ないが己の中で成長が見えたと。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

103人が本棚に入れています
本棚に追加