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小休止に、護衛と共に旭は御機嫌で後宮へと向かう旭。其の後宮の入り口にあたる廊下で、護衛の青年が旭の前に出て旭の動きを止めたのだ。
「白刃(シラハ)?どうしたのだ……?」
思わず護衛の名を呼び不安そうにする旭へ、言葉無く暫し神妙な表情を浮かべていた青年、白刃であったが。ふと其の表情を和らげ、旭へ向き直ると道を開ける様に傍らへ控えた。
「いえ。気のせいでした……失礼致しました」
深く下げる頭へ、旭は一先ず安堵する。
「いや、有り難う。では、行ってくるよ」
「は。お気を付け下さいませ」
護衛の白刃も、原則として後宮の奥へ向かうのは厳禁とされている為、此の入り口付近にて待機となる。見送る白刃を背に、旭は後宮の廊下を進み行く。長い廊下、後宮の中へと来た処で出迎えた見張りの若い侍女が厳かに旭へと拝をする。
「皇子様。お帰りなさいませ」
「ああ。御苦労」
旭は、侍女へと頷き更に後宮の奥へと足を進める。冷泉の私室の前にて、皐月が微笑みと共に拝をする姿。馴染みである皐月の姿を見ると、旭も安心感を得る。
「冷泉殿は居るか」
徐に上がった顔も、母の如く優しい笑顔。
「は。つい先程、庭の散策より御戻りになられた処に御座います」
そう旭へ告げ、皐月は部屋の襖へ身を向ける。
「東宮妃様。皇子様が御見えになられました」
其の厳かな声の後で。
「御通しして下さい」
襖の向こうより聞こえた冷泉の声に、皐月が静かに襖を開き旭を促した。まだ少々此の部屋に入るに勇気の居る旭。奥へと足を進めると、上を空け拝して出迎えてくれる冷泉の姿。
「御疲れ様に御座いまする、皇子」
「ええ。どうぞ、楽にして下され」
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