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一方。後宮を出た処では、白刃が頭を下げて迎えてくれた。残る執務を片す為に、執務室へと向かう旭。其の表情や雰囲気が何時もと違って見えるもので、白羽は。
「皇子様。此の度は、良い時をお過ごしでしたか」
つい訊ねてしまった。其れへ、振り返る旭は御機嫌な笑顔だ。
「ああ。私の絵を喜び、誉めて下さった……嬉しいものだな」
無邪気にそう答えた旭へ、白羽も微笑んだ。実の処、白羽も馴染み深く仕える旭の落ち込み様を案じていたのだ。どうなるかと思った政略結婚だが、其れなりに纏まりつつある事へ安堵する。冷泉も、見た目程に厳しさばかりの御方でも無い様だと。
「何よりに御座います。御同齢と言うのも、宜しかったのやも知れませぬな」
何気に口にした言葉へ、旭が驚きに勢い付けて振り返った。
「ど、同齢だとっ……!?」
白羽は、旭の此の反応にたじろぐ。其の意識が無かったとは、と。
「え?ええ……婚姻の読み上げを聞いておりましたので……」
婚姻の読み上げ。思えば、そんなもの覚えていない。あの時は、嫁くじの結果に放心状態であったのだから。筆を取り、血判を押したのも旭には無意識の流れ作業で。年等冷泉の見たまま勝手に、己より上だと思い接していた旭。
同齢。其れを今頭に入れた処で。
「そうは見えぬぞ……!」
寧ろ、更に複雑な思いが込み上げてくる。頭を抱え込んだ旭へ、白羽は余計な話であったかと宥めに掛かったり。
寄っては又広がる東宮妃との距離は、まだまだ不確かである様だと。
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