後宮の花。

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 冷泉を東へ迎え、一月(ひとつき)程。雨の多い季節を迎え、此れが過ぎればいよいよ本格的な夏となろう。  さてそんな中。其の日も変わらぬ朝を迎え、共に朝餉を頂く旭と冷泉の姿が在った。会話が今一つ弾まぬのも、まだまだ変わらぬ空気。とは言え、旭の中では何かが変わり出していたのだが。  其れは一先ず置き。現在旭には、冷泉へ切り出すべき話を抱えている。のだが、中々勇気が出ないでいた。其れは、父より持ち掛けられた話。冷泉を後宮より出して、旭の補佐として少し公務を任せてみてはとの事。勿論、此れも東宮妃の域を出ない縛りはある。しかし、冷泉を補佐として使う等胃が荒れそうで。  暫く、只箸を進める音だけが響く部屋の中。 「――あ、あの……冷泉殿っ」  思い切って声を掛けてみると、冷泉は手にしていた汁椀を静かに膳の上へ置く。 「はい」  丁寧に此方を向いてくれるのだが、旭には片手間の方が有り難いとも。 「あ、いや……其の、どうですか、最近……一月程にはなりましたが……」  緊張故か、やはり本題は切り出せなかった。代わりに、何の捻りも無い話である。冷泉は声の前に軽く頭を下げ。 「特に不便は感じませぬ。皆様も、とても良くして下さいますので」  との事。後宮とは女の園であるので、見目麗しい冷泉は当然あっさりと受け入れられている様子。其れ処か瑠璃が言っていた事情等から、冷泉へ主以上の思いを抱く者も居るだろうし。何せ、此の東宮御所でも多くの女官や侍女の雰囲気が浮き足立つと言うか。  旭はそんな事情を思い起こしつつ、何と無く面白く無いとも。 「そう、ですか……退屈であるとかは……」  其れならば、何か贈った方が良いだろうか。気の効いた発想は無いが、気に掛ける旭へ。 「確かに、退屈はありますね……なので、皇子を御待ちして居るのですよ。何時でも」
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