やって来た東宮妃。

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「良いではないか、好む側室を置くに気を使わぬで。先でお前は、帝であるのだしな」  逆に幸運だと。確かに、父も其れに近い事を話していたし、相手側も其れを承知で来ると。しかし、残念ながら旭には此の状況は特に幸運でもないのだ。 「其れは、そうなのだが……後宮は未だに苦手だしな……私は容姿も此の程度だし、寄る者の目的等見え透いたものさ」  自虐と共に重い溜め息が。旭は、己の容姿に自信が無い事もあり、年頃だと言うのに色事にはかなり奥手であるのだ。其れに加え、旭が好む余暇の過ごし方が、部屋で籠り読本を広げたり、絵を描いたりだと言うのも原因かもしれない。因みに、最近は手芸も嗜む。只こういった気性なので、多くの知識を得る為の学術等を苦と思わぬ事は、世継ぎに適当であったろう。古より武を重んじてきた東の皇子に恥じぬ様に、望まれる基準迄は技術も仕上げている。只、其れは生真面目さ故の努力。義務の域と基準は決して出ない。 「こんな私等、歴代最も地味な帝と後世に伝わるやもな……」  薄ら笑い、憂える従弟のを前に鑑も軽く溜め息。 「お前も、少し己を変えてみろ。もっと自信を持たぬか。さすれば、真の恋にも巡り合える筈だ」  密かに案じていた事と、素直に付け足す。此の分野へ耳が痛い旭は、要らぬ心配だと瞳が一瞬鋭くなったのだが。 「良いのだ。私の心は、『あづき姫』にある」  暗い表情が一変。晴れ晴れした表情と明るい声、更には胸元へ強く握られた拳があてられた。しかし、旭が口にした、此の『あづき姫』の事情を知る鑑は額を抱え。 「全く……百合も、兄へ厄介なものを。又例の恋愛模擬の読本(よみほん)だろう……そうではなくだな、生身の男でも女でも、其の姿に息を飲む一瞬があろう?」  話を戻す鑑だが。 「無いさ。そんなもの」
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