後宮の花。

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「――くっ、くそっ、ど、どうなるのだ……っ」  思わず、苛立ちと共にそう吐き出した。此処で我に返り、旭は慌てて読本を閉じてしまう。そして、静かに読本を書棚の端の奥へ仕舞った。軽い咳払いの後、再び筆を取るも何故か心が落ち着かない。物語の続きが気になる上に、何故か冷泉は今どうしているのか等とも。  執務に掛かるも、本日はどうにも気が散る。旭は一度筆を置き、部屋の外へと。 「皇子様。如何になさいましたか」  白羽が膝を折り訊ねてくれた。 「えぇと、後宮へ……一度は向かわねばな……」 「畏まりました」  旭の執務室より、後宮は直ぐだ。其の入り口で、先日程では無くも白羽が又妙に警戒を見せたのだが。 「皇子様。お気を付けて」  取り敢えず、そう告げてくれたので安心する旭。しかし、後宮にそんな危険がある様には思えぬがとも。 「ああ。行ってくるよ」  軽い言葉の後、旭は足を進め出す。冷泉は、本日も籠って読書だろうか。後宮も其れなりに広くはあるが、男の東宮妃である冷泉には女以上の縛りがある窮屈な空間に違い無い。  足を進めながら、旭の顔は俯き表情が曇る。 「出して差し上げねば、意地悪だよな……」  思わず小さく出た独り言。冷泉の私室へ辿り着くと、控える皐月が旭へ拝をする姿が。 「お疲れ様に御座います。皇子様」 「ああ。え、と……冷泉殿は……」 「はい。只今お庭へ。本日は、日差しが強いので傘を持つ共を付けて」 「ほう……」  特に何思うでも無く、では覗きに行って見るかと、一歩足を出した処で。 「――東宮妃様は、真に御教養高くいらっしゃいます」 「即興で、あの様に美しい歌を読まれるなんて……流石に御座いまする」
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