後宮の花。

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 妙に艶を感じる女の声に、顔を向けた旭。視界へ映ったのは、冷泉を中心に侍女が群がる景色。と言うても、過言ではないだろう。庭の散策にそんなに必要かと、突っ込みたくなる程の侍女を引き連れてお出での東宮妃。麗しい笑みをも浮かべて。 「恐縮に御座います。ですが、まだまだ未熟故――皇子。御越し下さったのですか」  旭に気が付き、冷泉が表情を引き締めた。侍女等も、旭の姿へ膝を折り其の場にて拝をする。冷泉は、侍女等を振り返り頭を下げて。 「皆様。お疲れ様に御座いました。皇子が御見えになられましたので、此れにて」  そう告げられ、侍女等は冷泉へも拝をし持ち場へと去ってゆく。此れには、皐月も呆気に取られていた様子。が、此れは後程経緯を確認せねばなるまいと、目を光らせる一瞬も。  先程迄花が咲いたかの如く明るい雰囲気であったのに、何故か旭が来た事で枯れていった様な。何にしても、旭の気分は優れない。 「皇子。さぁ、どうぞ」  皐月が開いた襖。先ず部屋へと促す冷泉の声に我に返った旭は、取り敢えず部屋の奥へ。  何時もの場所。上へ腰を下ろした旭は、会話をと。 「いや、其の。随分華やかでしたな……驚きましたよ」  皮肉を込めての一声。が、目線は泳ぐ小心者。冷泉はと言うと、表情を変える事も無く軽く頭を下げた。 「確かに。少々騒がしかったやも知れませぬ……庭へ出ると、皆様知らぬ間にお出でになられたので……てっきり必要な方々なのかと、其のまま」  と、至極真面目に。旭は、呆れに口を開いた。冷泉へでは無く侍女等へだ。年若い娘等が多くも、其れでも此の後宮に召し使える事を許される者。其れが節度の無い事。冷泉が呼んだのならばともかく、皐月の様子を思い出すと目を盗んでか。瑠璃が危惧した事も、大袈裟とは言い切れぬと。
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