後宮の花。

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 其の後。今一度、東宮御所後宮の風紀を改める為、冷泉は己の許された枠を越えず調査を始めた。此の動きに、いたく感動したのは皐月。御所の後宮でも、若き侍女の躾の術に変革をと声が上がる中、后妃の崩御より指導側となる女官等の間では、覇気の無い雰囲気も漂うていたものだから。切っ掛けを与えられ、皆生き生きと尽力を惜しまなかったと云う。  して、仕上がった案。夫で皇子なる旭を介し、正式に帝へと進言をしたのだ。帝は、此れに少々戸惑いつつも認められた書簡に感心した。其の案も、無闇に臣下を縛るものではない。時代は流れ行く、人の在り方も又時代に沿う。昨今の若者の在り方や物事の捉え方も踏まえて、個々の品格に問い掛け、雇用確定後も意識を高める働きかけが必要であると。古より受け継がれた後宮で重んじるべき規律の真髄へ到達するのは、現在の筆記試験のみでは不十分であるとの指摘等。  其の詳細な内容に佳宵は驚きつつも、冷泉が嘗て西の現帝の護衛、補佐をつとめた事も知る。其の資質と気性故か、仕事の出来は目を見張るものであったと。其れでいて、弁えた振る舞いも。西の上皇曰く、冷泉の母は非常に厳格で教育熱心であったのだとか。  良くできた婿、正に此れ。勿論、愛息旭も決して無能にあらず。だが、複雑ながら冷泉の実力を認めざるを得まいと。直ぐに皇家の者等へも伝わり、皆冷泉への思いを其々馳せていた。 「――真、見事であられるな。東宮妃様は」  旭の執務室。本日公務の為にやって来た鑑の余計な一言に、旭の悔しさに潤んだ目が光る。 「そなたも冷泉殿の味方かっ」  従兄弟であり、長い付き合いだ。そんな旭の卑屈な声に、溜め息を漏らす鑑。 「何だ何だ、結局尻に敷かれとるのか。同齢だと聞いたぞ、お前も少しは強気にならぬか」
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