後宮の花。

9/22
前へ
/187ページ
次へ
「なぁ……お前の推しとは、蛍では無かったか。和泉を敵視しとった筈では?」  鑑の純粋な突っ込みに、笑顔のまま固まる旭。みるみる耳迄顔の熱を上げて、前のめりとなった身を戻し咳払い。 「べっ、別にっ。百合が嫁入り前日に、無理矢理和泉の君編を置いて言ったのだっ……そ、其れも受け入れ、知らねば、夢紫殿の真の支持者に在らずっ……!」  等と。尤もらしく語る旭へ、鑑は軽く片眉を動かす仕草を見せた。視線も何故かじっとり。 「よう分からぬが、面倒臭いのだな……」  呟く鑑へ、旭は何とも言えぬ複雑な笑みを返したのだった。  一方。後宮の縁側では、冷泉がひとり。柱へ気だるげに凭れ、片膝を立てて腰を下ろす姿。其の視線は、夏の庭を眺めていた。明るい日の光に照らされる、美しい季節の花を憂える瞳でぼんやり見詰めて。 「――東宮妃様」  呼ばれた声に、冷泉が意識を戻した。顔を向けた先に、皐月が拝をする姿。冷泉も向き直り、頭を下げて。 「皐月殿。如何なされましたか」 「皇子様が御見えになられました」  其の言葉に、冷泉は漸く旭が居る気配へ気が付いた様であった。一瞬驚いた様な表情の後、柔らかさは消えて。 「皇子。御疲れ様に御座いまする」  其の場へ改まり、頭を下げる冷泉へ旭も我に返った。 「あ……いえっ。此方こそ、憩いの時に申し訳無い……」  そう言い、下げる顔は熱い。何故ならば、素直に冷泉へ見とれてしまって居たから。悔しいが、やはり己と違い其の姿は絵になるのだから。  冷泉は苦笑いを浮かべ、今一度百合の花へ顔を向けた。 「いいえ。花を眺めていただけで、特に何も」
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

103人が本棚に入れています
本棚に追加