103人が本棚に入れています
本棚に追加
寂しげに、後半そう溢した冷泉。旭は、其の違和感に冷泉を案じる様に見詰めた。
「冷泉殿……?」
其の声に我に返ったのか、冷泉は旭へと頭を静かに下げた。
「皇子。時はまだ許されますか」
「え、ええ。取り敢えず……」
旭の返事に、冷泉は微笑む。
「皇子の為に、一曲奏でとう御座います。御部屋へ参りましょうか」
冷泉の優しい微笑みに、旭は又も不思議な熱を感じた。しかし、我に返ると。
「あっ。本日は持って居りますぞっ」
懐をまさぐり、取り出したる龍笛。其の得意気な笑顔に、冷泉は一瞬目を見張り吹き出しそうになるのを堪えていた。
「御気遣い、嬉しゅう御座います。ですが、本日は私が皇子の為に奏でとう御座いますので……我が儘は控えますよ、御安心下され」
「そ、そうでしたか……」
旭は半分安堵、半分残念にも思いつつ龍笛を再び懐へ。こういった日もある様だ、まだまだ東宮妃様は掴めぬ。
本日、披露頂けたのは琵琶であった。流石と言おうか、やはり其の技量は素晴らしいものだ。奏でる音色も勿論だが、旭は其の雅やかな佇まいにも見入っていた。ぼんやりと冷泉を見詰める旭。幻想的な煌めきを纏う、不思議な御方であると。
心地好い旋律の余韻を残しつつ、撥が止まる。顔を上げた冷泉が、何やらぼんやりとしている旭を案じた。
「――皇子。御疲れに御座いますか」
声に我に返った旭は、思わず肩を跳ねてしまう。只見とれてしまっていたから。
「へっ?あっ、いえっ……あの、やはり御見事ですな。私自身、特に誇れるものも無いので……何をしても、平均の枠を超えられずと……」
最初のコメントを投稿しよう!